Aarteeni
『夜廻り猫』こころに寄り添う猫のおはなし


『夜廻り猫』(深谷かほる作)が好きです。
生きているともう本当に自分ではどうしようもないような
努力では何ともならないようなことが起こることもあります。
そんな状況の人の心にもそっと寄り添って
「そうかそうか」とただ話を聴いてくれたり
その人を信じて無事を祈ってくれたりする存在
それがこの主人公猫の遠藤平蔵。
たまたま漫画サイトで見かけてからすっかりファンになって
初版本を買って大事に読んでいたのですが
昨日のニュースで手塚治虫文化賞・短編賞を受賞することになったと知りました。
すごい!
嬉しい!
自分が受賞したわけでもないのになんだか嬉しいニュースです。
おめでとうございます。
「今宵もどこかで涙の匂い」
というサブタイトルがあらわしているように
夜廻り猫の遠藤が、涙にぬれる人や動物の傍に寄り添う
8コマのお話なんですが
哀しい涙
嬉しい涙
切ない涙
まだ泣けるほど余裕がなく涙にならない心の涙…
いろいろな深い人生を味わう人たちが優しいタッチで描かれていて
登場する猫たちや人たち
みんな好きになってしまうよう。
介護や貧困
病気や別離
孤独のつらい時
はあーとため息をついてしまうようなちょっとへこむ場面
自分を奮い立たせないとやっていけないしんどい状況など
誰でも少しは経験したことがあると思うんです。
そんな心の痛みに寄り添う遠藤に
読む私も慰められたり
それでも前を向く人の強さに励まされたりします。
かといって切ない話だけでなく
主に登場する大人な人々や
肚のすわった猫さんたちは
みんな愛にあふれていて
そのかっこいいあたたかさに涙がでるような話もたくさんあって。
生きていく中で大切にしたいことが、
短い台詞や優しいまなざしで描かれているところが
なんとも心を温められます。
好きな台詞はたくさんあるのですが
「家 木 人間 犬 猫 母さん きょうだい 仲間 たべもの
はじめからはもらえないものもある。
だが一番大事なものはきっと手に入る」
これもそのひとつ。
ままならない人生を生き抜いてきたからこそ
大事なものがみつけられた
眼がひとつだけのニイの愛情あふれる言葉。
こんな言葉にたくさん触れられるのも好きなところです。
(あと出てくるごはんが大変おいしそう…
作家の先生が作るバタあん麺麭とか。
揚げ魚肉ソーセージの定食とか。
物語にでてくるおいしそうなごはんってたまらないです)
遠藤はやたら励ましたりアドバイスしたりはしない。
人の勇気や哀しみや気遣いを
とても繊細にくみ取って、
一面的なジャッジをしたりしない。
ただ話を聴いて
思うことは言って
その人が自分でまた立ち上がる背中を
「おまいさんならできる」
と そっと見送り、祈る。
相手の力をちゃんと信じて敬っているんです。
遠藤ってすごい。
8コマの短編だから
疲れてたくさん読めない人にも読みやすくおすすめです。
少しだけ元気になりたいときに
手にとって繰り返し読みたい、やさしいおはなし。